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小説『二千年代の乗り越え方』略称"2000s"
NPО法人 わたしたちの生存ネット 編著
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日は既に高く昇っていた
Xが私を揺さぶっていた。私は目覚めた。あれは夢だった。窓の外を見た。いつもの街の風景だ。日はまた昇っていた。しかも、日は既に高く昇っていた。ビルの谷間にも太陽の光が差していた。午前十一時四十五分!らしい。Xも笑っていた。ということは絶滅の危機は通りすぎたのか。Xは「革命はもう完結したわ。無血革命よ」と言う。え?絶滅の危機が通りすぎただけでなく、革命も…しかも、夢にまで見た無血革命!喜びが少しずつこみ上げてきた。だが、眠っていたことへの後悔が勝った。俺はいつでも肝心なときに寝過ごして遅刻だ。大学受験の朝に寝過ごして一年浪人した。留学時代に寝過ごして大事なプレゼンテーデョンに出ることができなかった。あの日、寝過ごしてP教授の事件に遅れて対応した…などなど。家族や彼女が起こしてくれないから、そうなったこともあった。今度も…「何で起こしてくれなかった?」とXに尋ねても、Xは「あまり気持ちよさそうだったから…」と言うだけだった。私が眠った後、Xも少し眠っていたらしい。だが、Xは政府の主要施設あたりの爆音と崩壊音で目が覚めた。ぐっすり眠っている私をほったらかしにして、潜伏所に降りた。グループGの同僚らと合流し、次いでスラム街の人々と合流した。さらに離反者と合流した。そして、彼らとともに、軍と政府の主要施設を占拠し、暫定政権を樹立し、暫定憲法を公布した。そうしながら、Xは携帯できる通信システム、二十世紀前後の言葉を使えば「モバイル」で世界にA国での出来事を発信しつつ、世界の出来事を収集した。その後、Xは潜伏所に再び戻り、A国を含む世界の出来事をまとめた。結局、「世界同時革命」であることは確実で、「世界同時同日革命」になりそうだ、と言う。Xは結局、徹夜だった。同僚YもZも徹夜らしい。Xは徹夜の疲れにも関わらず、私にそれらの出来事を口頭で以下のようにさらに詳細に報告してくれた。Xは、いざというときは、ボキャブラリーが豊富なのだった。私は十分に眠ったので、Xの報告を聞きながら、以下のように考察できた。
局地戦争
昨夜午後九時、A国の行政権と立法権と国防省と軍の主要な施設が、人工衛星からか、潜水艦からか、どこの国からかも分からないミサイルによって一斉に完全破壊された。全体破壊手段は搭載されていなかった。軍や政府が誇示した例の最新のミサイル迎撃システムは、何発かは迎撃できたようだ。だが、実質的に機能しなかった。そのときに何も知らされていない警備員等、数百人が犠牲になった。それは局地戦争の犠牲者に含めた。革命の犠牲者には含めていない。それはもっともだろう。その前に既に、軍のM将軍と高官はシェルターに退避していた。彼らは、全体破壊手段の使用がなければ、すぐに地上に戻って地上の支配権を回復できると確信していたに違いない。また、すぐに地上に戻れなくても、シェルターの中から最新の通信機器と電磁波を使って、地上の政府と軍のスタッフと機器をコントロールできると確信していたに違いない。
無血革命
グループGは、武官と文官を含み「内部隠密情報提供者」「内部隠密戦略誘導者」を含む「旧政権離反者」と合流した。彼らと既に密に情報交換していたので、合流はスムーズだった。グループGは、彼らとスラム街の人々とともに、政府と軍の主要施設を占拠しにかかった。鍵等は離反者が解錠してくれた。M将軍らはシェルター内から司令を出し、地上に残った軍と政府の高官に主要施設を防御させようとした。だが、自分たちを置き去りにしてシェルターに退避した者たちに、地上に残された者が従うわけがない。簡単に言って、見捨てられたと感じた。そこで、武官も文官も含めて、新たな離反者が続出した。そこで、グループGと、武官と文官を含み、新たな離反者を含む旧政権離反者と、スラム街の人々は、無血で政府と軍の主要施設を占拠した。それらの建物は破壊されていたので、それらの敷地やそれらの間の広場に暫定私権の拠点を置いた。さらに、政治的権力者が自分たちを置き去りにしてシェルターに退避したことに対して、市民は激怒した。市民の心は既に権力者から離れていたが、それが怒りへと変わった。そこで、スラム街の人々だけでなく、周辺部の市民も主要施設になだれこんで、翌日午前九時までに主要施設を完全に占拠した。さらに、少なからぬ市民が、権力者が退避しているシェルターの入り口付近にも押し寄せた。
それらのことは首都の政府と軍の主要施設だけで起こったのではない。それらよりスケールは小さいが同様のことが、A国の首都以外の軍の主要施設でも起こった。そこではグループGの分枝、G1、G2…が主導してくれた。さらに、それらと同様のことは、世界の政府と軍の主要施設で起こった。そこではグループGと同様の反政府グループが主導した。
例の見せかけの反政府グループGFは郊外で活動していたが、都心部まで来て力になってくれた。グループGとGFと、武官と文官を含み新たな離反者を含む旧政権離反者と、シェルター周辺の市民が、シェルターの出入口をすべて封鎖している。
旧政府の社会権を保障する人の支配系に相当する部分は、まだ地上で抵抗する軍に物資と情報を提供するのを停止した。それによって地上に残る軍は完全に抵抗をやめグループG側に付いた。グループGは、内部隠密情報提供者と内部隠密戦略誘導者を含む旧政権離反者と、新たに離反した旧軍の技術者とともに、全体破壊手段のすべてを速やかに確保し不活化した。人工衛星搭載のものも無人潜水艦搭載のものも含めて不活化した。それらを不活化するには旧政権離反者の協力が不可欠だった。
Xら情報技術者はそれらの経過を市民にネットワークで報告した。暫定政権の概略と暫定憲法の詳細は、ネットワーク上でに過ぎないにせよ、既に長く熱く議論されていた。その上で、ネットワーク上でに過ぎないにせよ、それらは三分の二以上の賛成で決定していた。Xらはそれらを操作していないという証拠もネットワークで示していた。そこで、グループGと、武官と文官を含み新たな離反者を含む旧政権離反者は、暫定政府の樹立を宣言し、暫定憲法を公布した。以上と同様のことが世界のすべての国で同時に起き完結した。A国では無血革命となった。
離反の重要性、シェルターの逆説
「武官と文官を含む旧政権離反者」「新たな離反者を含む旧政権離反者」「内部隠密情報提供者と内部隠密戦略誘導者を含む旧政権離反者」などの言葉を使っていると文章が煩雑になる。だから今後は、それらを単に「旧政権離反者」または「離反者」と呼ぶことにする。
さすがにシェルター内までは全体破壊手段は持ち込まれていないようだ。仮にシェルターに全体破壊手段が持ち込まれて使用されたとしても、地上にその影響は及ばない。そのようにして地上とシェルターは別の宇宙のようになった。シェルターの意図された効果と正反対の結果が出たと言える。史上最大で最も明快な逆説だと思った。ところで、経済的権力者は私立のシェルターを信頼せず、公立のシェルターに入りたかったようだ。だが、政治的権力者に入れてもらえないどころか、政治的権力者の退避を知らされてもいなかった。そこで、彼らも見捨てられたと感じ、政治的権力者から離反し、市民に飲料水、食糧、医薬品…などの必需品を支給した。Xらはそれらのシェルターに係る経過も市民にネットワークで報告した。すると市民から「シェルターごとぶっこわしてしまえ」という意見が多かった。実際、シェルターに押し掛ける市民がいた。シェルター入口に石を投げる市民もいた。そんなことでシェルターが壊れることはない、ということで放置された。シェルターを封鎖する旧軍と旧警察は、離反者となるだけでなく、暫定政権に付くことを旗幟鮮明にしたので、市民から攻撃されず、むしろ食糧や水などを支給された。中には旧軍と旧警察に花束を贈る市民がいた。シェルター付近で祝宴を挙げる市民もいた。暫定政権は当然、禁酒法を停止していた。以上と同様のことも世界の多くの国で同時に起き完結した。
革命前からA国の軍の中にも「内部隠密戦略誘導者」が何人かいた。その中にO参謀が居た。次のことは、M将軍らが、シェルターに逃げ込む前に起こり始めたことである。O参謀らはM将軍に積極的に「全体破壊手段を使用しなくても、B国の軍の主要施設を破壊できる。主要施設を破壊すればB国の軍は実質的に機能しない」と進言してくれた。その進言が大きかった。M将軍は全体破壊手段をミサイルに搭載しなかった。それと同様のことはB国においても生じた。そのように内部隠密戦略誘導者の力が大きかった。世界で全体破壊手段は使用されなかった。
その進言によるのだろう。M将軍はO参謀を疎んじた。だから、O参謀はシェルターに連れて行かれなかった。O参謀は喜んで、グループGと合流した。グループGの同僚Zは、O参謀とネットワークで緊密に連絡をとっていた。だが、それまで二人が対面することはなかった。ZとO参謀が対面したとき、二人は抱き合って笑いながら泣いていた。とXは言う。O参謀によると、M将軍はミサイルに全体破壊手段である新型の核爆弾を搭載することを命令しかけていた。O参謀らは「そんな新型の核爆弾を搭載しなくても、ただの爆弾を搭載するだけで、B国の軍事施設をすべて破壊できる」となんとか説得した。それらのZとO参謀の話を、Xは聞いたと言う。そこまで絶滅の危機は切迫していた。そのO参謀は全体破壊手段の不活化を主導してくれた。また、暫定政権と新政権で、国内における全体破壊手段全廃予防部門の長官を務めてくれることになる。私は暫定政権のものの就任時にO参謀とお会いした。以下のようなことを話してくれた。
科学技術、特に情報科学技術の進歩によって、二千年より前の従来の兵器と戦略・作戦は廃れたように見える。だが、局地戦や内戦や市街戦ではそれらが必要である。また、全体破壊手段は廃止の方向にあり、従来の兵器と戦略・作戦の必要性は大きくなる。世界的に従来の兵器と戦略・作戦を重視する軍人は多い。彼らも全体破壊手段を全廃したかった。世界的に全体破壊手段を維持したがったのはむしろ文民大統領だった。科学技術の進歩や全体破壊手段の保持によって、熟練した軍人の必要性と権威は低下する。すると、文官には都合がよい。それらのことを話してくれた。O参謀は今後も貴重な顧問になると思った。
結果として、政府と軍の主要施設が破壊されたのは、超大国A、Bとそれらの間にある大国だけだった。だが、万が一、全体破壊手段が使用されたときに備えて、世界のすべての政治的権力者がシェルターに退避していた。そこで、上記の「史上最大で最も明快な逆説」が世界で生じた。そこで、離反者が続出し、世界の反政府グループと離反者と市民が政府と軍の主要施設を占拠し、反政府グループと離反者が暫定政権または新政権の樹立を宣言し、暫定憲法または新憲法を公布した。A国では無血革命となったが、B国といくつかの大国と小国では無血とはいかなかったようだ。B国では市街戦があったようだ。地球の裏側では太陽の直下で戦闘があったようだ。だが、世界の犠牲者が千人を超えることはない。
いくつかの国で以下のことが起こった。反政府グループと離反者は、容易に政府の主要施設を占拠したが、全体破壊手段の不活化と軍の主要施設の占拠に手間取った。シェルターに退避した権力者は、シェルターから残る軍事施設をコントロールし、占拠された政府の主要施設と反政府グループと離反者を、もろともにミサイルで破壊しようとした。中には小型の全体破壊手段を使用しようとした者もいた。だが、自国をミサイルで破壊しようとする暴挙に対して、残された軍事施設で離反者が急増した。それらの離反者が主力となって、残された全体破壊手段と、軍事施設のコントロールセンターを不活化した。それらの時間差が紙一重であった国もあった。紙一重だったが、事なきをえた。依然、世界の犠牲者が千人を超えることはない。
また、多くの国で、政治犯の多くは、反政府グループのスタッフか何らかの反政府主義者だった。一部は、全体破壊手段の開発を強要されたが、協力しなかった科学者だった。多くの国で、元政治犯が、速やかに解放された。その数十パーセントは、主要施設の占拠等に加わった。さらに、元政治犯の数パーセントは、暫定政権の主要ポストに起用された。だが、数十パーセントは衰弱しており、病院に収容された。数パーセントは、回復後に暫定政権の主要ポストに就くことになる。
依然、世界の犠牲者が千人を超えることはない。
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