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小説『二千年代の乗り越え方』略称"2000s"
NPО法人 わたしたちの生存ネット 編著
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国家主義、国益、人口問題…など
さて、時は革命前に戻る。超大国A、Bの政府と軍はもともと独裁的だった。それが両国ともにますます独裁的になってきた。両国は戦時体制を宣言し、元から形ばかりで不正だった選挙も停止した。また、元から形ばかりで機能していなかった立法権と司法権も停止した。超大国Cも、あの小惑星の事故があってしばらくは大人しかったが、元の独裁に戻りつつあった。P教授は、軍人が完全に政権を握ることを「軍独走型」独裁と呼び、文官が軍を完全に掌握して乱用することを「文官軍乱用型」独裁と呼んで区別していた。もちろん、それらは両極であって、それらの中間がいくらでもある。A国は、M将軍が実質的な権力を握るが、AP大統領が形式的な国家元首に留まり、前者に近い中間になった。文官を前面に立てたほうがM将軍にとって都合がよいだろう。いざとなれば文官を矢面に立たせることができる。B国はBP大統領が軍を完全に掌握し乱用し後者になった。P教授が言いたかったのは以下のことである。一見したところ軍人が脅威だが、それを操る文官がもっと脅威なことはある。さらにそれを操る軍人がもっともっと脅威なことはある…ということである。
また、諸国で権力者が、古臭い国家主義や愛国心を利用するようになった。それと人口論争が、かつてと違った形で再燃していた。
国家主義について。誰かが愛国心をもつとしても、それは国家に対してであって。国家権力に対してではない。権力者は、国家主義や愛国心を煽り利用して、政治的経済的権力を強化し、独裁を敷き軍拡し戦争も辞さない。M将軍に至っては「家族を守るためには男は、国のために戦わなければならないことがある」などというもはや化石のような言葉を吐く。私たちはこの時ばかりはM将軍を暗殺してやろうと思った。「俺たちは家族を守るためにはお前を倒す必要があるのだ。男も女も」と。だが、M将軍も本気でそんな言葉を吐いているのではない。M将軍のそのような言葉は市民を戦争へと煽り利用する麗句に過ぎない。私たちが批判する必要があるのは、国家主義や愛国心そのものではなく、それらを利用して市民を煽る権力者である。他のイデオロギーや宗教についても同様である。
人口論争について。人口の指数関数的増加に対して、第一にパンデミック、第二に飢饉や食糧難、第三に戦争と虐殺、を肯定する者が意外と多数いた。そのような肯定に対して、市民は無差別に嫌悪と恐怖を覚え、それらを公然と肯定する者は目立たなくなった。結局は第一のパンデミックと第二の飢餓、食糧難と、第三の戦争と虐殺の中でも局地的なものによって、現在のところ地球で維持できるぎりぎりの人口を少し超えている。そこで重要なことは以下のことである。幸いにして第三の戦争と虐殺が局地的なものであったから助かった。それは運がよかったに過ぎない。いつでもそれが全体破壊手段の使用に至り、人口抑制どころか人間を含む生物が絶滅する危険があったのである。全体破壊手段が使用されて、一部の超大国や大国が生き残ることは考えられない。何故なら、無人潜水艦、人工衛星…などに搭載される全体破壊手段のいくつかは、いかなる攻撃や報復によっても残存するからである。そして、報復の余地、報復の連鎖の可能性は、残るからである。つまり、前述の第一第二と、第三とを明確に区別する必要がある。さしあたり、第三が全体破壊手段の使用に繋がることがないよう、私たちは全力を尽くす必要がある。そして、全体破壊手段の全廃と予防に全力を尽くす必要がある。科学者や政府の専門家でさえも、まだ第一第二と第三の区別が十分にできていない。
例えば、飢饉や食糧難において、エネルギーを欠く美容食を配布するようなふざけた大国があった。飢饉や食糧難において危急で不可欠なのはエネルギーだ。エネルギーを欠く食糧を配布された人々の驚きと怒りは想像を絶する。冗談や笑いごとではない。飢饉や食糧難においてエネルギーを欠く食品を配布するのは、巧妙で悪質な人口抑制策だ。世界中の医師や科学者たちはそれを痛烈に批判した。それも重要だ。だが、少なくとも同じほど痛烈に、全体破壊手段を開発し保持し続ける世界の政治的経済的権力者を批判する必要があった。
それらの国家主義や愛国心と人口問題とが互いを助長することがあった。少なくとも超大国AとBで次のようなことを公然と語る政治的経済的権力者がいた。自国は他国より人種的かつ民族的に優勢である。他国を攻撃破壊すれば人口抑制になり、優勢な人種かつ民族が生き残る。と公然と語っていた。超大国のそのような衝突は、全体破壊手段を含み、人口抑制どころか、人間を含む生物を絶滅させる可能性が極めて大きい。世界の反政府グループと市民がネットワークでそれらの政治的経済的権力者を痛烈に批判した。さすがに彼らは公然とそのようなことを語らなくなった。だが、公然と語らなくなったのが急だったからこそ、恐ろしかった。
国家主義や愛国心というような精神的なものではなく、政治的経済的権力者が現実的な「国益(National interest)」なるものに訴えることはいつの時代もあったし、この度もあった。それに対して、世界の反政府グループと市民が、仮に局地戦争に終わるとしても、戦争が国益になることは決してないとネットワークで反論した。だが、地球規模で枯渇していく資源の中では国益と見えたものは過去のいかなるときより重大だった。もはやこれは国益などというものではない。生存に不可欠な生物資源である。食糧である。権力者が国益などの言葉を使うから、市民もそれが見えなかったのだと思う。生存に不可欠な生物資源のためにはもはや戦争は避けられないだろう。これからもそうだろう。だから、せめて全体破壊手段が使用されないように全力を尽くすしかない。戦争が局地戦争になることに全力を尽くすしかない。そして、戦争が局地戦で終わったならば、全体破壊手段を全廃するしかない。そして、全廃した後は予防に全力を尽くすしかない。そう痛感した。
MAD、SMAD、新旧のミサイル迎撃システム…など
さらに無理のある軍事理論が加わった。千年代末の「冷戦」なるもののときに「相互確証破壊(Mutual assured destruction)(MAD)」という概念があった。二つの超大国が核兵器という全体破壊手段をもって他を確実に破壊できれば、超大国は相互に攻撃することがなく、大戦は避けられるというものである。それに対して、私たちは諸国の政府と軍の主要施設の近隣に一般市民が居住しないことによって、全体破壊手段使用の必要性を減じ、市民ではなく、権力の中枢だけを相互に選択的に破壊してもらうという「権力疎外」を展開していた。それは視点を変えれば「選択的相互確証破壊(Selective mutual assured destruction)(SMAD)」とも呼べる。MADの頃と比較して、科学技術、特に情報科学技術は進歩し、政府と軍はますます選択的に政府と軍の中枢だけを破壊できるようになっていた。SMADは、その選択性によって、市民を犠牲にせず、権力者だけを犠牲にすることを目指す。全体破壊手段の必要性を減じ、人間を含む生物の絶滅を予防することを目指す。
ところで、既に千年代末のMAD華やかなりし頃にも、MADの均衡を破ろうとする理論があった。それらは真新しい名称で呼ばれたが、端的に言って「ミサイル迎撃システム」だった。迎撃する現場を大気圏内から大気圏外に広げただけのものだった。その後、二千年代に入ってしばらくして、迎撃する現場は、大気圏内外どころか、宇宙に広がった。最近になってまた、斬新と主張する理論が、少なくとも超大国A,Bで以下のように出現した。いつの時代も威嚇のために、軍事技術が進歩しているように見せかける科学者や政治的経済的権力者がいる。科学者らは言う。「再び大気圏内に立ち返って、敵国からのミサイルをすべて迎撃できる。その迎撃できるミサイルは人工衛星からのものも無人潜水艦からのものも含む。それらによって、敵国からのミサイル攻撃・反撃・報復をほぼ完全に封じ込めることができる」と。私たちは一般市民として、それらのうちのA国の科学者に質問した。「それらの『ほぼ』とは何パーセントの確率か?」と。彼らは「九十五パーセント」と答えてきた。そこまでの回答は容易に帰ってきた。その後、私たちは「小数点以下は?」と聞き返した。その問いへの答は帰ってこなかった。いい加減なものに過ぎないにせよ「九十五パーセント」の数値を漏らした科学者は、M将軍に抹殺されたようだ。その後、A国のM将軍もB国のBP大統領も、その迎撃システムによって敵のミサイル攻撃・反撃・報復を「確実に」封じ込めることができると威嚇した。つまり、科学者や技術者が「ほぼ」と言ったことを彼らは「確実に」と言い換えていた。
本来の戦争
さらに、シェルターに対する過信が加わった。全体破壊手段が使用され、地上が破壊され汚染されても、政治的経済的権力者が逃げ込むような最新のシェルターでは数万人が世代を超えて数百年、生存できる、という噂が立っていた。また、そのようなシェルターと地上との間の情報通信技術も進歩し、新発見の電磁波が利用される。全体破壊手段が使用されなかった場合、世界の政治的経済的権力者は、シェルターから地上に残された政府と軍と企業を、コントロールできると確信していた。全体破壊手段が使用された場合で、数百年の生存が可能だとしてみよう。世界の人口と比較すると、ほんの一握りの人間が生存するに過ぎない。しかも、数百年、生存するに過ぎない。仮に人間を含む生物が、宇宙船等で別の惑星または別の系に移住して生存するとしても、一部が生存するに過ぎない。しかも、逃げた者は地球上の生物とは別の方向に進化する。私たちはそれらを地球の生物の生存と認めない。私たちが目指す人間を含む生物の生存とは、太陽または地球の激変のときまで、人間または進化した人間を含む生物が、この地球上で生存することである。
さて、二千年に入ってしばらくして、食糧となりえる生物資源は二千年前後の石油と比較にならないほど貴重な資源となっていた。どんなに科学技術が進歩しても、例えば、「人工光合成」が実用化しても、食糧を光と水と二酸化炭素だけから作れるわけがない。何らかの生物資源が要る。単に収穫され保存されている穀物等だけではなく、持続的な生産のできる農地、牧草地、漁場…などが要る。それらが「生物資源」または「食糧資源」である。世界の人口を維持するためには大量の生物資源が要る。あのF国は既にあの隣接する大国に併合されていた。F国の部分も含めてその大国は生物資源が比較的豊かだった。また、それらに隣接するいくつかの国も生物資源が比較的豊かだった。地理的にそれらの国々は超大国AとBの間にあった。つまり、A国とB国の間に世界の人間の生存に不可欠な資源を有する国が集中していた。A国、B国は既にそれらの国に介入し軍も派遣していた。既にそれぞれの勢力圏が形成されていたが、その境界はますます緊迫していた。既に前述の「資源を巡る局地戦争」は始まっていた。
さらに、A国とB国の間の紛争と比較する限りでスケールは小さいが、それらと同様の紛争が世界の他のいくつかの地域で始まっていた。しかも、それらの当事者のいくつかが、A国とB国のいずれかと結託し、あからさまに同盟するものもあった。ここまでだけでも、二千年前後の世界大戦のレベルに達していた。だが、それらは二千年に入ってしばらくしてまでの戦争とは異なる。
現在の戦争は、覇権、領域、宗教、民族、イデオロギー…などではなく、生存に不可欠な食糧資源を巡る争いである。何故、かつて人間は不可欠でないもののために戦っていたのだろう。それらは避けられたはずだ。こう言っては悪いが、そんな戦争はちょろい。かつての戦争が何千万人の生存を掛けた争いだとすれば、今の争いは何十億人の生存を掛けた争いだ。生存に不可欠なものを巡る戦い。それがこれからの戦争だ。これが本来の戦争だ。しかも、世界の政権はすべて、大なり小なり独裁的なものであり、外交による資源の分配は望めない。だから、少なくとも局地戦争は避けられない。私たちにできることはせめて、全体破壊手段が使用されることを避けることだけだった。この危機を乗り切って、全体破壊手段の全廃と予防と、民主的分立的制度の確立と維持に全力を尽くすしかない。本当に不可避という意味で最初の、人間を含む生物の絶滅に繋がりえ、以後は全体破壊手段を全廃予防し民主的分立的制度を確立維持するしかないという意味で最後の、最初で最後の戦争だ。それに対するのは、最初で最後の本当の意味での決戦だ。と思った。
諸国の反政府グループが打合せ通りに動いた。特にA国のグループGとB国のグループHが互いに緊密に連絡をとりつつ動いた。つまり、A国とB国は、権力者の側は敵対していたが、反政府グループの側は連携していた。さらに、世界の反政府グループが連携していた。これも世界の市民と世界の権力者という横割りの構造に含まれる。既に一般市民のほとんどが、諸国の政府と軍の主要施設近隣に居住していなかった(権力疎外)。スラム街の中でも人々ができるだけ周辺に移動した。潜伏所の中でもスタッフができるだけ周辺に移動した。政府に顔の割れていないスタッフはスラム街の周辺に移動した。また、世界中の反政府グループが既に、政権と軍からの離反者に対して革命後は罪を問わず、希望次第で従来以上の地位と対偶を保証すると宣言していた(離反推奨)。また、世界中の反政府グループが自国の政府と軍の特に所在地に関する情報を入手し、積極的に他国に漏洩した(権力相互暴露)。さらに、政府や軍の内部に潜む人々で情報提供できる立場にある人々(内部隠密情報提供者)に、情報の提供をお願いした。全体破壊手段が使用され人間を含む生物が絶滅するとすれば、当然、自分たちも死滅する。だから、それらの人々が積極的に情報提供してくれ、他国と世界に提供できた。また、世界の政府と軍に積極的に「全体破壊手段を使用しなくても相手の政府と軍を選択的に破壊できる。また、全体破壊手段を使用すれば貴重な資源が汚染される。だから、全体破壊手段を使用しないでください」とお願いした。さらに、政府や軍の内部に潜む人々で政策や戦略に影響を与える立場にある人々(内部隠密戦略誘導者)に、そう政策と戦略を誘導するようお願いした。上と同様の理由で、それらの人々が忍耐強く誘導してくれた。また、できる限り多くの国々が中立に留まるようお願いした(中立推奨)。特に残る超大国であるC国にそうお願いした。
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