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小説『二千年代の乗り越え方』略称"2000s"

NPО法人 わたしたちの生存ネット 編著

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準備段階

準備段階:以下が準備段階である。最も重要な段階である。

権力疎外:私たちは各国の政府と軍の主要施設の近隣に一般市民が居住しない運動を展開し、それは既に完成していた。スラム街の人々は危険にさらされるが、いざとなればスラム街の中でより周辺部に移動する。それらを私たちは「権力疎外」と呼んでいた。権力疎外は、全体破壊手段が実際に使用されたときに備えるのでは全くない。全体破壊手段が使用されれば、地球上のどこにいても無駄である。権力疎外は、全体破壊手段の開発、保持、使用や戦争の必要性を、最初から少しでも減じる手段だった。地球規模の権力疎外があれば、権力と権力者は、一般市民を犠牲にせず、互いを限定的に破壊するだけで戦争が終わる可能性が大きくなる。全体破壊手段や大量破壊手段を使用する必要性が小さくなる。これは全体破壊手段の研究、開発、保持、使用の予防のためだけでなく、一般の戦争において、一般市民の犠牲を少なくするためにもある。

権力相互暴露:これは権力疎外を補完するものである。また、世界の市民と世界の権力者という横割りの構造の極みである。それぞれの国の反政府グループは自国の政府と軍の主要施設に関する情報を入手し、それを世界の一般市民と政府と軍に積極的に漏洩する。そうすれば、諸国の政府と軍は互いの政府と軍の主要施設をより確実に限定して破壊できるようになり、一般市民が救われる可能性が大きくなる。当然、それぞれの国の反政府グループが同様のことを世界に行う必要がある。私たちはそれを「権力相互暴露」と呼び、既に進めていた。権力疎外への批判は少ないだろうが、この権力相互暴露は大きな批判に晒される可能性がある。二千年より前の価値観をもってすれば、これは国家への裏切りであり、国家主義や愛国心への冒涜だろう。そのような批判はあるだろう。二千年代に入ってしばらくして国家主義や愛国心は衰退し始めた。だが、まだ批判はわずかにでもあるだろう。また、批判はなくても一般市民に違和感があるだろう。そのような違和感と批判に対してどう応えるか。議論があった。それは後述する。

ネットワークの構築:この独裁的な世界においては、言論がネットワークでしかできないのはやむをえない。世界の政治的経済的権力の独裁と独占に侵されない、世界の市民が参加できるネットワークを構築する必要がある。権力者によって、破壊されないだけでなく、侵入されて操作されないネットワークである。それはXら情報技術者によって既に構築されている。また、暫定政権の骨組みと暫定憲法への投票ができるような投票システムも、構築されている。その投票において、重複投票などを完全に排除することは困難である。だが、権力者が作ったような投票システムよりは、よっぽどマシなシステムが既に世界で構築されている。

独裁への逆行を予防する政治制度を議論し確認し共有しておくこと:過去の革命の失敗の主因は、一部の勢力が独裁へと逆行したことと、反対勢力どうしが権力を巡って激しく争ったことにあった。それらを防ぐために、政権担当者の独裁への逆行を予防するのに必要最低限度の政治制度を、反政府グループと市民が議論し確認し共有しておく。そして、暫定政権の段階からそのような政治制度を確立する。そのような政治制度として、自由権を擁護する法の支配系(L系)に必須の厳格な自由権、民主制、三権分立制、法の支配が、既にネットワークで反政府グループと一般市民の間で議論され確認され共有されていた。それらは、自由権を擁護するだけでなく、それらそのものを維持し、独裁への逆行を防ぐ。また、それらの議論、確認、共有の過程もネットワークで公開されていた。さらに、革命後にそれらが厳守されているかを検証し議論する場も、ネットワーク上でできあがっていた。
  それに対して、社会権を保障する人の支配系(S系)における、経済、医療福祉、労使関係調整、教育、文化、人口問題、自然の保全…などの政策については、無理に確認と共有をしようとしない。それらを無理に確認し共有しようとすると、反政府グループどうしの争いが生じる。それらの詳細は革命後に議論し、最終的に市民の正式な投票に委ねたほうがよい。だが、社会権の保障の専門家は、S系における政策を、革命前から練っておく必要がある。そして、革命後には、それらの専門家を抜擢し、それらの政策を速やかに実行させる。そして、独裁と革命または内戦で荒れた経済、医療福祉…などを、できるだけ速やかに立て直す。そうしないと、市民は暫定政権または新政権から離れていくだろう。
  だが、かえすがえすも、革命前の準備段階で確認し共有するのは、独裁への逆行を予防する必要最低限度の政治制度に留めておいたほうがよい。
  それらを明確に実行するために暫定政権の段階から自由権を擁護する法の支配系と社会権を保障する人の支配系を分立しておく。

暫定政権準備・暫定憲法準備:暫定政権の概略と暫定憲法についても、反政府グループと反政府グループ、市民と市民、市民と反政府グループの間で議論し確認し共有しておく。さらに、上記の投票システムによって、一般市民の承認を得ておく。その承認はほとんどの国において既になされていた。
  暫定憲法について、文面は様々だが、従来の伝統的な憲法に加えて以下が加えられた。公権力の保持者と公権力に係る言論が、いかなるもののためにも制限されることのない自由権であること。自由権と社会権の区別。国家権力を自由権を擁護する法の支配系(L系)と社会権を保障する人の支配系(S系)に分立すること。前者のある程度の詳細。後者の概略。全体破壊手段の全廃と予防のために、国家権力が国内と国際社会において最大限に努力すること、が従来の伝統的な憲法に追加された。
  暫定政権の概略について、A国のものを例に挙げる。他国のものについて、微妙な違いがあるだけでが、大差はない。

  自由権を擁護する法の支配系(L系)
    司法権
    立法権
    行政権
      軍を監督する立法権の委員会
        軍
      検察・警察を監督する立法権の委員会
        検察・警察
      国内において全体破壊手段を全廃し予防する部門
      外交部門(立法権の委員会)
        世界において全体破壊手段を全廃し予防する部門
      選挙管理委員会
  社会権を保障する人の支配系(S系)
    立法権
    行政権
      経済産業部門
      自然保全部門
      労使関係調整部門
      福祉医療部門
      教育文化部門
      科学技術部門
      財政税務部門
      外交部門

S系の行政権の中では、分立や分岐は厳格である必要はない。また、S系の行政権の過度の分立や分岐は弊害である。場合によっては一つの機構としてもよい。それに対して、L系においては、立法権、行政権、司法権の三権が厳密に分立するだけでなく、行政権においても軍と警察等が厳格に分立する必要がある。もちろん、S系とL系は分立する必要がある。

離反推奨:公的武力を含む政治権力において、上司・上官の命令に従わない者、または組織から離脱するもの、または権力の中にあって隠密に反政府グループと市民に協力する者を「旧政権離反者」または単に「離反者」と呼べる。彼らの罪を問わず、希望次第で従来以上の地位と待遇を保証することを宣言しておく。離反者の中でも重要なのは、準備段階では政権の中に留まり秘かに協力してくれる者である。それらを「隠密離反者」と呼べる。革命が始まれば、表立って反政府側と合流し、主要施設占拠の際の解錠、全体破壊手段の不活化…などをしてもらう。武官にせよ文官にせよ、できるだけ上の地位の者に離反者になってもらい、革命が始まれば部下も引き入れてもらう。さらに、隠密離反者のうち、権力の内部にあって隠密に機密情報を提供してくれる者を「内部隠密情報提供者」と呼べる。彼らには、特に従来以上の地位と待遇を保証することを宣言しておく。さらに、隠密離反者のうち、政府と軍の政策と戦略に影響を及ぼす立場にある者で、「全体破壊手段を使用しなくても、相手の政府と軍の主要施設を破壊できる。全体破壊手段を使用すれば資源も汚染され利用できない」…などと政策と戦略を隠密に誘導してくれる者を「内部隠密戦略誘導者」と呼べる。彼らには、特に従来以上の地位と待遇を保証することを宣言しておく。革命完結後はそれらを確実に履行する。そのようにして、政府と軍からの離反を促すとともに、政府と軍の機密情報を入手し、政策と戦略を誘導する。

一般市民の犠牲の極小化:反政府グループは、襲撃された場合に備えて、襲撃が一般市民を巻き込まないだけの距離を、一般市民から置く。過密が進む現代では、その距離は地下と地上の距離であることが多く、潜伏所は地下を掘って作られることが多い。一般市民を煽らず、一般市民を戦闘に参加させない。ただし、政府と軍の主要施設がほぼ占拠された後に、そこでデモンストレーションすることぐらいは、自由意志に委ねる。物理的距離に対して、精神的距離はネットワークを通じてできるだけ小さくする。

中立推奨:超大国のいくつかと大国のいつかの局地戦争は、避けられないかもしれない。だが、他の国家がそれらに巻き込まれず中立で留まることは可能だろう。できる限り多くの国家に中立で留まるよう世界の反政府グループと市民が権力者たちにお願いする。

反政府グループ間の権力闘争予防:これは、上記のいくつかと重複する。過去の革命が失敗に終わった第一の原因は、複数の反政府勢力どうしが、革命後の政治権力を巡って争ったことにあった。それらは熾烈で一般市民にも多くの犠牲者が出た。それらに対する対策として、繰り返すが、独裁への逆行を予防する最低限度の政治制度を十分に議論し確認し共有しておく必要がある。また、暫定政権の主要な人選について予め合意しておく。そして本格的な政権の人選は完全に市民に委ね、公正な選挙を実施する。その選挙の管理委員会は暫定政権が努めざるをえないが、その人選についても予め合意しておく。または、地方自治体で中立的な管理委員会があれば、それを起用する。繰り返すが、議論、確認、共有は独裁への逆行を予防する必要最低限度の政治制度の議論と確認と共有に留め、それ以外について、反政府グループは争わず、革命後の市民の意志に委ねる。例えば、経済体制の詳細、自然の保全の詳細…など社会権を保障する人の支配系(S系)の詳細については議論せず争わず、革命後の市民の意志に委ねる。
  ところで、A国においては他の反政府グループはなかった。だが、一般市民から幾多の意見があり、私と同僚X、Y、Zらが一般市民と大いに議論した。だから、一見、暇に見える潜伏所での生活が暇ではなかった。他の国においてはそれに反政府グループの間の議論が加わり、特にB国の同僚Vは忙しかったようだ。

経済体制や自然の保全の詳細:それらの詳細について議論が少しあった。以下のようになった。
  二千〇〇年、「資本主義経済」または「自由主義経済」または「市場主義経済」も、「共産主義経済」または「社会主義経済」もなく、経済はすべてそれらの混合物になっていた。だが、混合物の詳細については、現政権の中や間や市民の間でも議論があった。また、自然を保全すべきというのは当然のことだった。だが、自然の保全の詳細にはついては議論があった。それらは社会権を保障する人の支配系(S系)の詳細である。やはり、反政府グループは議論せず争わず、革命後の市民の意志に委ねる。ということになった。

カリスマ性・過度の権力欲求をもつ人間の排除:過去の革命が失敗に終わった原因の一つに、カリスマ性や過度の権力欲求をもつ指導者が出現し独裁へと走ったことがある。カリスマ性、過度の権力欲求をもつ人間は、男も女も、過度の粘着性、自己顕示性、支配性、破壊性などの臨床心理学でいう「悪循環に陥る傾向」をもつ。それらを反政府グループのスタッフが見抜き、反政府グループ形成の段階で、それらをもつ者を排除する必要がある。また、市民もそれらの傾向をもつ者を選挙しないようにする必要がある。A1大学の臨床心理学のR教授に「それを見抜くのは難しいだろう」と言ってみた。すると、R教授は少し考えて「簡単に言えば、目立ちたがり屋を選ばないことだ」と言っていた。そう言えば、分かりやすいと思う。あるいは、少なくとも参考になると思う。

哲人政治について:ここで、少し議論が生じた。「カリスマを過剰に排除するのでは、自由権の擁護または社会権の保障に有能な人間まで排除してしまうのではないか」と。それに対して、以下のように議論が展開した。「『自由権を擁護する法の支配系(L系)』の担当者に、能力とか知識とかは不要であるだけでなく弊害である。彼らは実直に憲法を順守していればよい」「『社会権を保障する人の支配系(S系)』の担当者も、地道に、経済、医療福祉、労使関係調整、教育、人口、自然の保全…等に係る政策を追究していればよい」「だが、S系においてはカリスマ的指導者が出現する余地が残る」「仮にS系においてカリスマ的指導者が出現しても、それらの系への分立が成されていれば、カリスマがL系に及ぶのを防ぐことができる」
  それから「哲人王」の問題に発展した。「カリスマ的指導者は、今後出現しないだろう。だが、プラトンの言う『哲人王(Philosopher king)』等を待望する者はいる」「プラトンの言う『哲人王』等は、伝説に過ぎない。歴史上そのような『哲人王』が出現した証拠はない」「確かにその証拠はない。だが、今後、出現するかもしれない」「仮に哲人が出現しても、いずれは独裁や専制や全体主義に走る」「仮に哲人が生涯を全うしても、二世、三世が独裁…などに走る」「仮に哲人王が出現し善政を敷くとしても、それはS系でやればいいことだ。L系では、哲人王は不要であるだけでなく弊害である。国家権力が前者と後者に分立されていれば、前者で生じた哲人王が後者に及ぶことはない」

準備段階の後

  準備段階をしっかりしておけば、後は比較的容易である。

局地戦争段階:上記の準備段階によって、全体破壊手段は使用されず、全面戦争、世界大戦が予防される可能性は大きくなる。だが、局地戦争は避けられないかもしれない。この段階においては、世界のいくつかの国の政府と軍の主要施設が破壊されるかもしれない。諸国の政府と軍の幹部は、もしも全体破壊手段が使用された場合に備えて、既にそれらの主要施設を退避し、シェルターや潜水艦等に籠っているだろう。その退避先から政府と軍をコントロールしようとするだろう。

革命・内戦段階:以下に細分化できる。時間的に多少、前後することはある。

主要施設占拠:破壊されて、または、幹部の退避により手薄になり士気が低下した政府と軍の主要施設を、反政府グループと市民が占拠する。ここでは離反者の協力が、例えば開錠等で、不可欠である。
暫定政権設立・暫定憲法公布:暫定政権の概略と憲法の詳細は、既に準備段階で一般市民の間で議論されておく必要がある。さらにネットワーク上だけでもよいから、採決し決定しておく必要がある。さらにネットワーク上だけでもよいから支持率を測り公表しておく。それらに操作がないことの証拠も公表する。その上で、暫定政権を設立し暫定憲法を公布する。
旧政権離反:シェルター等に退避しておきながらコントロールしようとする権力者に対して、地上に取り残された政府と軍の公務員は、どのような情動をもつだろうか。権力者に見捨てられたと感じ、彼らに対する信頼と尊敬を失うだろう。反政府グループは権力者が退避していることを積極的に暴露し、残された武官を含む公務員の離反を促す。「旧政権離反者」に対して準備段階で宣言しておいた通りにする。さらに、新たな離反者に対しても同様にする。
内戦宣言:他国にはこれが革命または内戦であり、他国に干渉することはなく、全体破壊手段を使用することは決してないと宣言する。同時に他国に干渉しないでくれ、全体破壊手段を使用しないでくれとお願いする。内戦または一国の革命で全体破壊手段を使用する者はいないだろう。
交戦:以上をもってもある程度の交戦は避けられないだろう。
全体破壊手段不活化:暫定政権と旧政権離反者が協力して、できるだけ速やかにそれぞれの国の全体破壊手段を不活化する。人工衛星搭載のものも潜水艦登載のものも含めて不活化する。この不活化には旧政権離反者の協力が不可欠だろう。そして、さしあたり不活化した後に全廃を目指す。

新憲法・新政府設立段階:既に上記のいずれかの段階で自由権を擁護する法の支配系(L系)の立法権の選挙、社会権を保障する人の支配系(S系)の立法権と行政権の長官の選挙、制憲議会の選挙、憲法の国民投票、それらのあり方と日程をできるだけ速やかに決定し公布し、確実に実施する。

全体破壊手段全廃予防段階:諸国でできるだけ速やかに全体破壊手段を不活化する。できるだけ速やかに、全体破壊手段の全廃と予防のための国際会議を開催する。上記の世界的な革命が成功した直後が、全体破壊手段全廃の好機だろう。これを逃せば、二度とチャンスは来ないかもしれない。だから、できるだけ速やかに、全体破壊手段の全廃と予防のための国際会議を開催する。

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